【評価7.7/10】時計仕掛けワカプレ「ツォルキン」で可視化された戦略を練り続けよう。【レビュー】
- 下村ケイ
- 5月20日
- 読了時間: 15分
更新日:6月10日

●ゲーム概要
手番でできる行動は2択です。
1.ワーカーを配置する
2.ワーカーを抜いて該当スペースの効果を発動する

メインボードには一際目を引く歯車が並んでおりまして、中心を除くそれぞれの歯車にワーカーをセットすることができます。ワーカーをセットする場合、原則ゼロの場所(≒空いてる最小の場所)となります。
一回の手番で選べるのはどちらかひとつのみ。逆に言えば、どちらかひとつは必ず選ばないといけない。例えば「どのワーカーも抜きたくない」という状況だったとしても「手元にワーカーがない=ワーカーを配置できない」の場合、ワーカーを抜く方を選択しないといけません。

ワーカーを配置する場合、同時に配置する数が多いほど必要なコーンの数が増えます。コーンは時代の節目で支払う飯ノルマであり、同時に通貨のようなもの。
ちなみにワーカーを抜くときはいくつ抜いてもコストなどは発生しません。同時にたくさん抜くと連続してアクションスペースを起動できるイメージです。
全プレイヤーが一回ずつ手番をすると、歯車が1目盛り分回転します。
これにより、全てのエリアの歯車が連動し、ワーカーもそれに伴って次のアクションスペースへと移動します。

これが本作最大の特徴です。基本的に時間が経って歯車が回転するほど、アクションが強力になっていきます。
●主な勝利点
〇建物と記念碑

ゲーム中、プレイヤーは建物を建設することで、後述する「神殿マジョリティ」や「技術トラック」に関するリターンを得たり、時代の節目ごとに発生する食糧ノルマを緩和させたりする効果などが得られます。この建物自体に即時の勝利点が付随していたり、はたまたくだんの技術トラックによって建設自体に勝利点が発生するようになったりします。

記念碑はゲーム開始時にプレイヤー人数に応じた枚数のタイルがランダムに並んでおりますが、建設するとゲーム終了時の該当パラメータを参照して勝利点を得られます。ボドゲによくある「〜の数 × X点」です。
〇神殿マジョリティ

ゲーム中、建物の効果やアクションスペースによって3本あるレーンを一歩ずつ上に進めることができます。本作には食糧供給日が4回ありますが、うち2回は神殿レーンの進み具合によって資源を、うち2回は神殿レーンの進み具合によって勝利点をもらえます。

また、勝利点がもらえるタイミングで各レーンでトップだったプレイヤーには追加で勝利点が与えられます。レーンによって、またタイミングによって点数に偏りがあるため、マジョリティをとるタイミングに複数の思惑が絡むことになる上に、そこそこ貴重な得点源(+資源収入)なためわりとバチバチなレースになります。
〇チェチェンイツァ

アクションスペースの起動に水晶髑髏が必要なうえ、大きな点数を目論むとなると長い時間ワーカーを熟成させる必要がありますが、写真をご覧になればわかる通り歯車終盤の得点の爆発力はなかなか魅力的です。
また、該当するアクションスペースに描かれたアイコンというのが先ほどの神殿の各レーンと対応しており、うまく立ち回るとマジョリティ争いでもほんの少しだけ優位に立てます。
最初の内は「どれから手を付ければいいんだ、、」と戸惑うかもしれませんが、主要な得点源はそこそこシンプルにまとまっており、歯車の運行やワーカーの抜き差しに慣れてしまえばそこまで見通しは悪くありません。ただ、慣れた者同士のゲームになるとどれか一つに注力してれば勝ちは固い、とはなりにくく、どの分野にどれだけ力を入れるのか、どの分野とどの分野をいかに組み合わせるのか、またそのタイミングなど考え始めるとゲームは途端に難しく、また楽しくなります。
●なにが「ツォルキン」の魅力か
それでは、本作の魅力について深掘りしつつ紹介していこうと思います。思うに本作を特別なものたらしめているのは、
①一切の揺らぎが介在しない歯車の運行のなかでアクション効率をひたすら計算し続ける「高度な戦略性」
②複数用意された勝ち筋のなかで最適な勝ち筋を模索し続ける「戦略の幅」
この2点かと思われます。
具体的に書いていきます。
まず、本作の主要なメカニクスであり同時に外観上の最大の特徴でもある歯車は、「待つほどにアクションスペースが強力になる」と言うシステムと組み合わさることで、
「あと何ターン待てば何ができるか」
と言う展開が身も蓋もないほど正確に可視化されます。違う言い方をすれば、自分が考えた戦略に対して起こり得る不確定要素――揺らぎがほとんど発生しないのです。
例えば通常のワーカープレースメントであれば、他プレイヤーがアクションスペースを早取りで占有することで「自分がやりたいアクションができなくなった」→「戦術を変えるか、妥協するか」と言ったような意思決定が発生します。それがために相手の動きを読む必要があり、また自分の計画を臨機応変に調整する楽しみがあります。

対するツォルキンでは自分が置こうとしていた歯車に他プレイヤーがワーカーを配置したとしても、コーン余分に払えば同じ歯車上(の次に空いているスペース)にワーカーを配置することができます。また、記事の前半では触れませんでしたが、ワーカーを抜く際1コーンを追加で支払うことで1スペース分前のアクションスペースを起動できる、というルールが存在します。
つまり、コーンさえあれば相手の動向という揺らぎに対する微調整はどこまでも可能だと言うことです。

話題を少し変えます。
ワカプレにおける手番数を定義する「ワーカーの数」はこれすなわち正義だという不文律は様々なボドゲにおいて散見されます。本作もその例に漏れずワーカーを増やした方があれこれと手を出したり、あるいは一つの分野に特化しやすくなったりします。
ただ、本作は通常のワカプレと比較して決定的に違う構造があります。それはこの記事の冒頭でも書きました「配置したあと、望む待機時間を経た後、歯車から抜くことでアクションが発動する」という部分です。
つまり、ワーカーを増やして「はい、有利だね」で終わらないのです。
どういうことかと言うと、ワーカーを増やしたところで「配置したワーカーを効率良くリムーブしなければアクションの瞬間風速が上がらない」ということです。
例えば先の手番で6人のワーカーを置ききったとします。となると次はもうワーカー配置ができないのでワーカーを抜いてアクションを起動せねばなりません。ただ、アクションスペースは1手番分しか回らないため、そんなに強いアクションを実行することはできません。
であるから、消去法でワーカーを一人だけ抜き取ってアクションを実行するのが妥当な案のようにも思えます。一手番で、たった一人分のアクションだけ。これではワーカーを6人増やした強みが全然活きませんし、フードデイでコーンを人数分支払う分むしろ損のようにも思えます。
特に本作は中央の巨大な歯車が1回転したらゲーム終了=総手番数が厳密に決まっているため、点数を伸ばすためには一手番あたりの効率を上げないといけません。特に、ゲームを通して唯一揺らぎと言える要素が建物タイルの補充によるめくれ運だけなので、詰まるところワーカーをいかに効率良く抜き差しするかで勝敗が決まるのです。

それらが全て時計のように可視化されているのです。
●手番における効率とは。
一手番あたりの効率とはすなわち、
「一手番にどれだけのアクションを行えるか」
=「一手番にどれだけのワーカーを歯車から抜くことができるか」
& それと表裏一体である、
「一手番にどれだけのワーカーを歯車に配置できるか」
この2つにまとめられます。
本作のワーカーは最大6人なので、大雑把な極論で言うと「手番ごとに6人配置→6人抜く」が最大火力となりそうですが、先ほども書いた通り、無論そうは問屋がルチアーニなのです。
まず、6人も同時に配置すると要求されるコーンが膨大な数になってしまいます。
そして、6人ずつ行って帰ってをしていると歯車上で熟成する時間がありません。是が非でもやりたいアクションスペースまでワーカーを運ぶには数手番分の待機時間を設けなければなりません。このゲーム、いかなる場合もパスすることは許されないので、数手番分の間、他の場所でワーカーを配置たりワーカーを抜いたりして手番を過ごさねばならないのです。
ここらへんのルールを脳が咀嚼しおえると、途端にこのゲームの底が見えなくなってきます。しかしそれは闇雲な底なしではなく、あくまで思考によって十分に晴れ得る底なしなのです。
例えば、3ラウンド後に必ずやりたいアクションがあるとしましょう。つまり、3ラウンド後にあなたが手番でとる行動は「ワーカーを抜く」に決まります。となると、3ラウンド後というタイミングで同時にたくさんのワーカーを抜いてたくさんのアクションを実行するのが効率的です。
他のゲームであれば、3ラウンド後にどのような状況になっているかを観察してから手を打っても遅くはないです。なぜなら他プレイヤーとのインタラクションやデザイナーによって巧妙に計算された運要素など、様々な揺らぎがあることにより状況などいかようにも変化するからです。
だが、本作においては3ラウンド後に何ができるかは歯車ですべて明白に可視化されています。
今この瞬間どこにワーカーを配置すれば、3ラウンド後ワーカーを回収するとき「時宜にかなった利益」を最大化できるか。それによって資源が得られる場合、歯車のカウントさえ間違っていなければ「資源の獲得」それ自体を妨害されることはないため、更に未来のコスト支払いを見越してワーカーを配置することも可能です。

何を支払い何を得られるかという未来がマヤの歯車によって全て決まっている、というゲームの構造に窮屈さを覚える人もいるかもしれません。
逆に、思考すればするだけ最適と思われる戦略ににじり寄ることができるという点は、ゲーマーの心を掴んで離さない魅力でもあります。特に遊びはじめのころは、どう立ち回ればいいかも手探りななかでじわじわと自分の戦略を見定めていく楽しさがあり、慣れ始めてからはいかに自分の得意とする戦略を最大効率で実現し続けるかに挑む楽しさがあり、どちらもやりごたえは抜群です。
ただ、ひとつだけ懸念があるとすれば実力差のあるプレイヤー同士で遊ぶときでしょうか。レビュー記事を読んでいると「定石を知っている経験者には絶対勝てない」という旨の言及を見かけますが、それは「マヤの歯車によって全て決まっている」というシステムの功罪ですかね。絶え間なく変化する状況の中できらりと光る閃きや妙手によって勝負がどこまでも不確定になるのは誰しもが夢中になる瞬間ですが、そういうムラっ気みたいなものは本作にあまりありません。それを好みととるか、苦手ととるかで本作の評価はいかにようにも転ぶかもしれません。
●されど状況は変わる。豊富な勝ち筋と戦略の応用性
と、散々「結末まで歯車で暗算できる」と言うような意味の言葉を繰り返してきましたが、本作はいわゆるソロプレイ感の強いゲームという訳ではありません。先述の神殿マジョリティはあいも変わらずバチバチですし、建築できる建物タイルも全て早取りです。この記事をここまで読んだ上で購入を検討している方がいらっしゃったら「計算可能であるが故につまらないのではないか」という懸念を抱かせてしまったかもしれません。安心してください、杞憂です。
例えば相手の動向は常に変化します。あなたが勝利へと続く完璧な暦を発明、あるいは発見したとして、例えば他プレイヤーが早々に神殿マジョリティの獲得に動き出したらあなたは神殿関連のアクションを前倒しにする必要があるかもしれません。是が非でも建築したい建物タイルが場に現れたとき、建築コストをすでに満たしているプレイヤーがいたら、、これも同様に計画を柔軟に変えなくては横取りの憂き目にあうやもしれません。
そういった「微調整」は全体に対して些細なものかもしれませんが、全てがかっちりと組み上がっているゲームだけにあたかもバタフライエフェクトのようにゲームを予期せぬ方向へ変化させていきます。
また、ゲーム開始時に場に並ぶ「記念碑」ですが、そのラインナップ次第では得意とする戦法ではうまく得点化ができなくなる可能性は十分にありますし、反対に新たな戦略を試すよい動機にもなります。
このように、全てが歯車で組みあがっているからこそ、どこまでも戦略的に計画を立てられるが故に、目先の状況によって迫られる「戦術的判断」がゲームの流れをどこまでも不確定なものにする――そして確定と不確定の合間でそれでも自分の戦略を貫こうとするのか、或いはアドリブで戦略をどこまで変化させるのかの判断もまた、本作ならではの醍醐味であると言えます。

●レビューチェックリスト
1:深さ/複雑さ
「意思決定において、どれほどの困難≒楽しさが伴うか」
4.5点。身も蓋もなく可視化された未来に対して、にじり寄るかのように歯車のカウントも望むタイミングにあわせていく。その難しさと楽しさは極めてツォルキン的だと言える。そしてその意思決定を「手番にできるのはワーカーを配置するか、或いは抜くか。どちらかだけ」というシンプルなルールで実現しているところがすごい。また得点行動の種類が複数あるため、セットアップされた記念碑を睨みつつけ「今回はどうプレイしようか」と悩む時間はとても愉快だし、それを歯車の上でどう実現するかの研究もしがいがある。
2:メカニズム
「ゲームの設計はどれほど美しいか」
4.0点。歯車のインパクトたるや、、例えばオーソドックスな資源管理の側面だったり、シンプルな神殿マジョリティであったり、永続効果を付与する技術開発だったり、個々の要素を分解していくと個々はそう奇抜という訳ではないかもしれない。だが、それらをまとめあげる歯車のおかげで何もかもが考えごたえのある愉快な要素に昇華している。食糧供給までのラウンド数が文字通り歯車の形で目に見えるのも面白いし、毎度歯車を一目盛り分だけ回すのも楽しい。
3:相互作用
「他プレイヤーとの絡みの量、質」
3.0点。ワカプレのような皮はかぶっているけれど、相手が歯車の0の位置を占有することによって(追加コストは発生するが)次の歯車の位置におけたりと嬉しい誤算もあったりするのでシビアな場所の奪い合いという種類のインタラクションは薄い。ではワカプレからシビアさを省いたら何が残るんだという話になるが、そのぶん建物タイルの早取りと神殿マジョリティは割とばちばち。そこらへんの組み合わせはメリハリがあってよいかなとは思う。
4:オリジナリティ
「戦略、メカニズム、テーマはどれほど新鮮でユニークか」
3.5点。マヤの暦というテーマは抜群に個性的だし、それを言葉通りの歯車で表現したのは秀逸だ。先述の通り個々の要素に目も覚めるような目新しさはないが、それらを歯車の上に配置しただけで、他のボドゲではなかなか味わえない思考の質と量を味わうことができる。
5:ムード
「テーマやアートワークはボドゲ体験をどれほど彩るか」
3.5点。兎にも角にも歯車の存在感がすごい。くるくる回しているだけで世界観に入り込める。またアートワークなども絶妙に南米感があって心地よい。だが、コンポーネント全体の質は割と平均的かも。コーンや各種資源をアップグレードトークンで置き換えたり、歯車を塗装したりしたら、ムードのところは4.5点くらいにはなるかもしれない。
●主観的点数:4.0点(5点満点)
〇その理由
重量級ボードゲームに何を求めるかは人それぞれだけど、少なくとも大なり小なりは「頭を使いたい」という欲求があると思う。その点ツォルキンはその構造上、歯車上を回り続けるワーカーの使い方について思考すればするほど効率的な勝利点につながるため、かなりピュアな「頭を使う」という行為に没頭することができる。強すぎるインタラクションの影響で計画を妨害されたり、ここ一番のカード引きにしくじって不利益をこうむったりすることがない。それらが悪いと言いたいわけでは断じてないが、少なくとも理不尽な目に遭って積み重ねてきた思考がご破算にならない安心がある分、ツォルキンに安心して身をゆだねることができる。無論、そういった「決定論に思考で挑む」とでも言うべき雰囲気が肌に合わない人もいるだろう。本作は万人に好かれるタイプの「名作」では断じてない。ただ、そのぶん好みにがちっとはまる人はとことんはまるタイプの「傑作」ではあるように思う。
現代的なボードゲームに比べると無骨というか不親切というか、そういう感じがしなくもない。だが、あばたもえくぼというやつで、ツォルキンが一度好きになるとそういう癖も魅力的な個性のように思えてしまう。多分、ざっくばらんに要素を縫い上げたような顔して、その実かなり緻密にバランスとか計算してあると思う。ほんと、多分だけど。
荒々しくも、歯車仕掛け。
まるでマヤの暦のようなボドゲだ。
興味があったら&未経験同士の仲間で集まれるなら、ツォル沼に一緒に漬かれるかどうかを試す、くらいの気軽さで試す分には問題ないと思う。さぁ、君もレッツ歯車くるくる。
●評価点の算出方法
チェックリストの平均点+主観的点数
👉3.7点+4.0点=7.7点
●テーブル幅
後日写真を貼ります。
●気になる点などありましたら、お気軽にコメント欄までお願い致します。
●宣伝
・短編小説「常世の暁」
24時間夕焼けを見詰め続けていると、時に人は狂ってしまうらしい。
人々はビルの屋上から身投げをし、残された人間によってたくさんの詩が作られた。
昆虫学者として夕焼けの街に暮らす私は、
ある日、幻と呼ばれる蝶の話を耳にする。
(6000字程度。カクヨムにて公開中。画像をクリックすると該当ページに遷移します)
・生き抜け、専ら2人で。
——死ねば全ロスト
それでも僕らは闘う
兄弟DayZ実況、是非ご覧ください。
(画像をクリックするとYouTubeの再生リストへ遷移します)
・自己出版本「エレクトロ」
夢も 願いも
もはやただ電子的なものでしかないとすれば
我々の愛もまた電子的であっていけないいわれがありましょうか
Kindleストアにて販売中。
尚、Kindle Unlimitedに加入していると無料で読めます。
(画像をクリックすると販売ページに遷移します)
Comments