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【評価7.5/10】ままならなさが止まらない——十重二十重に張り巡らされたパズルでしのぶ、科学の道「ニュートン」【レビュー】

  • 執筆者の写真: 下村ケイ
    下村ケイ
  • 5月23日
  • 読了時間: 15分

更新日:6月10日




●ルール概説

規定のアクション数をプレイすると1ラウンド終了。

このアクションの選び方がなかなか個性的でして。ざっくり言うとカードを個人ボード上に出したカードに記載されたアクションが実行できます。詳しくは後述します。

6ラウンドでゲームは終了、より多くの勝利点を集めたプレイヤーの勝ちです。


〇本棚による勝利点収入


この本棚だと縦列がひとつ完成しているので4点です。横向きの行は未完なので5点はもらえません。
この本棚だと縦列がひとつ完成しているので4点です。横向きの行は未完なので5点はもらえません。

個人ボード上に本棚がありますが、本棚の行や列を埋めると対応する勝利点を毎ラウンド終了時に得ることができます。つまり早く埋めるほど効率よく大きな点数を稼ぐことができるため、あの手この手で本棚を埋めるのがゲームの大きな目的と言えます。


その他にも細々とした勝利点がゲームの至るところにちりばめられているのですが、メインとなる勝利点は専らこの本棚からもらうことになります。


〇本を置くための条件

本棚の各マスに記載された様々なアイコンはそのマスに本を配置するために満たすべき条件を表わしており、その種類はおもにふたつ。


1:地図ボード上の「大学」や「遺跡」などに自分の駒が置かれている。

或いは、

2:カードのプレイエリアにアイコンと同じ「色」と「冊数」の「本のアイコン」が置かれている。


まず「1」について。あるアクションを実行すると地図ボード上で自分の駒を移動できるのですが、移動を終えた場所に自分の色の駒を置くことができます。


先程の本棚と見比べていただくと、各地のロケーションが対応していることが分かるかと思います。
先程の本棚と見比べていただくと、各地のロケーションが対応していることが分かるかと思います。

なので、「赤いⅥ」のマスを埋めたければ、地図上の「赤いⅥ」で移動を終える=そこに自分の色の駒を置く必要があります。幸い、今回のゲームではスタート地点のすぐ知覚にありますね。


次に「2」について。先ほど「カードを個人ボードに出してアクションを行う」と書きましたが、その際にこのように、、



カードの上半分に本のアイコンが記載されているものがあります。本棚に記載された文献の「色」と「数」を満たしてはじめて、条件を満たしているとみなされます。


上の写真はゲーム終盤で撮影したものなので様々な文献が揃いまくっておりますが、逆に言うと意識してカードを揃えないとなかなか色も冊数も揃ってくれない塩梅になっています。


なお、ラウンドが次に進むとカードは全て手札に回収するので、条件を満たすべくまたカードを出していかなければなりません。


これらの条件が揃って初めて、本棚に本を配置できます。ただ、全てを律儀に満たそうとするとかなり骨が折れる上に地図上の配置次第では効率が悪かったりします。


そこで、フラスコの出番です。


〇万能にして救済の資源。その名はフラスコ。


テーマ的な原理は不明ですが、大方実験の類に活用しているのでしょう。フリーアクションとしてフラスコは1つ支払うと任意の本としてカウントすることができ、3つ支払うと本棚のマスの中の条件をひとつだけ無視することができます。これがなかなか便利といいますか強力といいますか。地図ボード上で経由するべきロケーションをひとつ無視できると考えると、その有用性は計り知れません。


ではフラスコはどうやって手に入れるのかというと、フリーアクションで3金支払うと購入できたり、



各ボード上のボーナスタイルの上で立ち止まる(=駒を置く)ことでもらえたりします。



と言うわけで、本棚の条件を満たす以外にも各地を旅して回る必要があったりします。


〇アクションについて

アクションの種類は「旅」「技術」「研究」「業績」「講義」の5つ。ここにワイルドカードを加えた計6枚が初期手札になります。ざっくり言うと、地図ボード上を進んだり、発展ボード上を進んだり、お金をもらったり、本棚を埋めたり、新しいカードをもらってきたり。


ちなみにカードはすべて手札として使いますので、山札などは存在しません。


このアクションカードの使い方が、冒頭でも書きました通り一癖も二癖もあります。


まず、効果値という概念。

例えば地図ボード上を何歩進めるのか、だったり本棚の何段目に本を配置できるのか、だったりを決めるのがアクションの効果値になるわけですが、


この効果値がどのように決まるのかというと、、


ラウンド内で使用したカードはこのように個人ボードに並んでいくのですが、、


カードを出したとき、ボード上に見えている同じアイコンの数がそのアクションの効果値となります。例えば写真は「歯車カード」を出した直後ですが、同じアイコンが個人ボード上に1枚もないため、効果値は「1」です。次の手番で「歯車カード」を出せば、今度は効果値が「2」としてアクションが実行できる、という訳です。


ちなみに、先程の写真を再び貼りますが、、



ラウンド中にプレイして並んでいくカードの列とはまた別のところで、アイコンが並んでいますよね。というのも。ラウンド終了時にプレイエリアに並んでいるカードから1枚を選んで個人ボード下のスロットに差し込まないといけません。薄緑色で指されている下半分だけひょっこりカードたちです。(ちなみにここに何枚並んでいるかで、現在が何ラウンドか分かるようになっています。上の写真だとスロットが5枚すべて埋まっているので、最終である6ラウンド目だということです)


これにより効果値はゲームが進むほど大きくなりやすいのですが、、、この仕様がまたいろいろと悩ましさを呼ぶのです。(詳しくは後述します)


また、赤い矢印はゲーム中にボーナスとして獲得できるタイルであり、一度獲得すればゲーム中ずっと「コンパスの効果値をプラス1」させることができるというものです。こちらも専ら発展ボード上のボーナスタイルとして得られます。



〇カードの買い方

毎ラウンドの終わりにカードを1枚スロットに差し込むということは、手札として所有しているカードが1枚ずつ減るということです。つまり、適宜カードを獲得していないと、手札が枯渇してアクションができなくなります。補償や補填の類はありません。ただでさえ手番数がタイトな中、計画的にカードの獲得もマストでしないといけないのです。


各山札ごとに3枚公開されています。この中から選べます。

各山札には帽子のアイコンが記載されていますが、それぞれ獲得に「帽子」アクションの効果値が1から3必要になります。ちなみにこれは「講義」を表わしているらしいです。



●感想にかえて。本作の特徴と魅力。


〇とても考えごたえのあるパズル

中量級程度のサイズ感でありながら実に多様な要素が盛り込まれた本作ですが、大まかな得点構造はほとんどが個人ボード上の本棚を埋めることに集約されているため、とっ散らかった見た目に反して中身というか流れというか、はそうとっ散らかっていない気がします。個人的な印象ですが、本作の本質はあくまで「無数のパラメータを伴うリソースマネジメント」であり、それらが有機的に結合しあうことであたかも「解法すらままならない非常に噛み応えのあるパズル」を形成している点が、本作の大きな特徴でありまた魅力でありましょう。




〇ご利用は計画的に。アクション選択がままならない

例えば実行するアクションを選択する上で重要になる手札構築の要素。デッキ構築と違って全てのカードを手札としてオープンにしてる状態でゲームが進むので、確率を考慮しながら「どのカードがあと何枚必要か」といった計算事は不要です。


ただ、記事の前半でも書きました通りラウンド終了時に使用したカードの内1枚を個人ボードの下にセットしなければなりません。これは以降のラウンドで該当アクションの効果値を底上げし続けるため、あなたが重視したい分野のカードを上手にセットすることができれば大きな力になることでしょう。しかし、カードの上半分に記載されていた効果はボードによって隠され以降使用することはできなくなります。




これがいかなジレンマを生み出すのかと言うと、例えばセットするカードを選ぶうえで理想を言うなら「上半分に何も描かれていない=使用したときに何も効果を発生させない初期手札」を差し込みたいと思うはずです。場から(何らかの効果を発生させる)カードを購入する場合、あなたは貴重な1手を割いてカードの購入にあてている訳ですよね。だもんだから「どうせ買うならじゃんじゃん使えるカードを買おう」という心の動きがあったはずです。そんな思い入れのあるカードを、たかだか効果値+1のためにボードの下に埋めたくない。


ただ、ラウンド終了時にボードに埋めるカードはそのラウンドで使用したカードから選ばねばなりません。ということは「上半分に何も描かれていないカード」をセットするには、ラウンド中に「上半分に何も描かれていないカード」を使用する必要があるのです。当然な上にくどい言い回しになっておりますが、これの何が問題なのかと言うと「上半分に何も描かれていないカード」はただただ弱いのです。


「本当は強力な効果を付随させるカードだけをプレイしたい」

「だがそれだとカードを埋め込む時に損をする」


「個人ボードに埋め込む用に何も効果が付随しない初期手札を使おう」

「でもそれだとお金が湧かない/本アイコンが揃わない/総じて弱い」


という具合に、アクション選択それ自体にジレンマが発生します。無計画にカードをプレイしていかないと遅かれ早かれ困ったことになってしまう。その「ままならなさ」と、さりとて計画的にカードをプレイできればより効率的な動きができるかもしれないという思考を誘引する仕掛けは、まるで魅力的なパズルです。


ゲームの骨格自体はそう複雑ではないが、アクション選択それ自体にままならなさを盛り込んでゲーム全体を奥深いものにする、というとフェルトの「トラヤヌス」や「アクアスフィア」を連想します。どちらも大好きなボドゲなので、いつかレビュー記事を書かせていただきます。



〇こちらに進めばあちらが立たず。フラグのために東奔西走。科学の徒に暇はない。


記事の前半でも書きましたが、本棚を埋めるためには地図ボード上で様々な場所に訪れないといけません。また、本棚の配置条件を緩和させるためにはフラスコが必要ですが、フラスコも専ら地図ボード、或いは発展ボード上にボーナスとして配置されていることが多いので、やはりボード上を歩き回らなければなりません。加えて、通過するだけでもらえるボーナスタイル(ボード上の灰色にプリントされた小さい円形タイル)は早い者勝ちです。




となると、どこを経由してどこへ行くのがいいのか。を延々と考えることになります。自分が埋めようとしている本棚の列が必要とするフラグはどこなのか。どこを経由すれば最短で目的地に辿り着けるかorどこを経由すればもらえるリソースが最大化できるか。多少遠回りになるが早い者勝ちのボーナスタイルを通過して手持ちを増やしておくのか。といった悩み事がタイルの数、ルートの数だけ分岐して非常に難しくもあり、また楽しくもあるのです。


そこに、くだんの「ままならないアクション選択」や「効果値のジレンマ」が層を成すように加わります。いくつものレイヤーに渡って事象が展開しているものですから、容易には最適な一手が浮かびにくく、延々と悩み考えてしまうのです。


また、ボード上を進めるマス数は効果値の分だけなので、地図ボードの東奔西走に力を入れたいのならラウンド終了時に「旅」アクションのカードを個人ボードに差し込めば効果値を底上げできるのでいろいろ捗りそうです。ただ、そうなると「旅」アクションカードの枚数が1枚減ってしまうので、単純に「旅」アクションを実行できる回数が減ってしまいます。となると、「帽子」アクションでカードを獲得した方が良いような気もします。


その上で、本棚を埋めねばならないのです。


そして繰り返しになりますが本棚における「本」の条件を満たすには(書き方がややこしいですね、、)個人ボードに並ぶカードの上半分に記載されたアイコンの要件を満たさなければならない。


アクションを司るカードのプレイを軸に、十重二十重に折り重なった思惑と悩ましさが織りなすパズルの様相、お伝えできたでしょうか。


ちなみに、本作の特徴はまだありまして。

それが「ランダムセットアップの幅の広さ」です。例えば地図ボード、発展ボード上の大学や遺跡やボーナスの類はランダムに配置されます。また個人ボードに最初から記載されてるアイコンも変わります。なんなら初期手札に付随してるアイコンの組み合わせも微妙に変わります。


このことから、毎回盤面などを観察してどの動きが相対的に強いのか、どのようなルートを辿ると自分の戦略に有利に働くか、どのように手札を構築するかなど、毎度解法が変わります。ただでさえ容易に習熟させてくれない奥行があり、またゲームごとに特質が微妙に変わることから、リプレイ性もとても良好だと言えます。





・他にも出すのは大変だがそこそこ強力な効果をもっている「偉人カード」や、効果値さえ確保しておけば安定してお金を生み出してくれる「業績トラック」、本の条件は厳しいがゲーム終了時に点数をくれる「目的タイル」など、紹介しきれていない細かい要素はまだまだありますが、今回はこのあたりにしておこうと思います。


●レビューチェックリスト


1:深さ/複雑さ

「意思決定において、どれほどの困難≒楽しさが伴うか」

4.0点。本棚を埋める。簡潔に言うならばその一言に集約されが、そこにかくも多彩且つ多様な選択肢が破綻なく実装されている。そしてその多様性がランダムセットアップによっていかようにも変化し得るのだから、毎度新鮮な気持ちで存分に悩むことができる。そして厄介なことに眼前に広がる無数の選択肢とて、何一つ気軽に選ばせてくれない「場に出したカードを個人ボードに差し込む」ルールが本当に秀逸だと思う。その気になればいくらでも重たく出来る構造だが、敢えて中量級と言っても差し支えないサイズ感でこれらをまとめることで、相対的に一手の重みを増大させ、悩ましさの深化を推し進めるシステムが良きだ。はまるひとはところんはまるパズルだと思う。


2:メカニズム

「ゲームの設計はどれほど美しいか」

3.5点。悩ましくも切れ味のあるハンドマネジメントや、無数のボードにまたがって展開されるパズルの様相は夢中になれるポテンシャルに満ち満ちている。そしてそれらのどこまでも多層的な悩ましさも詰まるところ本棚を埋める、という目的に束ねられるため、決して迷子になりすぎることもない。パズルとして解法を見つけようとする楽しさに思う存分取り組むことができる設計だ。


3:相互作用

「他プレイヤーとの絡みの量、質」

2.5点。直接的なインタラクションはボーナスタイルの早取りくらいしか存在しないため、濃厚な読み合い差し合いなどを求めるには少しだけ物足りないかもしれない。ただ、好意的に言うなら立体的なパズルの効率的な解を計算する思考のなかで過度な雑味となる不確定要素はこれくらい抑制されていた方がよいのではないかとも思う。絶妙な距離感。また毎回ランダムセットアップで戦略も都度変わるため、例えば相手がどのタイミングから本棚を埋めて勝利点を発生させるのかの間接的なレース風味は結構ある。あと「早取りくらいしか〜」と書いたが序盤はあらゆるリソースが不足気味なため序盤にどの程度ボーナスタイルを確保していくのかは割と大事だったりするため、決してソロプレイではない。

ちなみに拡張を導入するとなかなか強力なタイルの早取りが発生するため一気にインタラクションが強くなる。気になる方は検討してみてほしい。



4:オリジナリティ

「戦略、メカニズム、テーマはどれほど新鮮でユニークか」

4.0点。目移りするほど多様な要素を並べつつ、主たる得点行動を本棚に集約することで悩ましくも見通しのたちやすいパズルを構築しているところは間違いなく本作の特筆すべき個性に思える。テーマ性は若干貼り付けられたような気がしないでもないが、さりとて「科学」以外で諸要素を違和感なくまとめられそうなテーマをちょっと浮かばない。


5:ムード

「テーマやアートワークはボドゲ体験をどれほど彩るか」

3.5点。科学をテーマにしたボドゲであるが、科学を感じる事はあまりない。とするレビュー記事をちょこちょこ見かけたし、実際におい立つテーマ性みたいなものはそこまでだというのが正直な感想。ただ本を模したタイルで文字通り本棚を埋めるギミックはかなり素敵だし、多岐にわたる分野を横断しながら要領よく頭を使うことを要求される感じはどことなくアカデミックな雰囲気である。中量級であることを鑑みれば、マイナスになるほどのものはないように思える。


●主観的点数:4.0点(5点満点)

秀逸な中量級である。重量級と比べれば短い時間できっちり終わるというのに、それでいてがっつりと計画性を求められ、その上で延々と悩み続けてしまうようなジレンマもたっぷりとある。その時間の短さと、悩みどころの両立は切れ味を生み、そのパズルのままならなさは病みつきになると言っても過言ではない。テーマ性はいくらか薄い気がしないでもないが、そこかしこに散りばめられた「科学」の気配も、なんだか知的なことに手を染めているみたいでわくわくする。


加えて、ゲームに習熟するほどちゃんと点数が伸びていく奥行もきっちりとある。一通りベースゲームに満足したら、ミニ拡張に手を伸ばせば更なる楽しさを味わえるし、なによりランダムセットアップの妙で毎回とても違った感じのするゲーム体験があるためリプレイ性も決して低くない。総じて、いろいろな点で複層的な愉快さが散りばめられている。


●評価点の算出方法

チェックリストの平均点+主観的点数


3.5+4.0=7.5点


●テーブル幅

我が家では60センチ×120センチのテーブルを使っています。


中量級ではあるものの、メインボードが2枚ある上に個人ボードもそこそこ場所をとるため(下にカードを差し込む都合上)、なかなかに場所をとります。ただ、テーブルに余白自体は残るためカードの配置などを工夫したらもう一回り小さいテーブルでも問題なく遊べるのかな、とは思います。



何か気になる点などありましたらお気軽にコメント欄までどうぞ。




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