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【評価7.5/10】マンカラが回る、思考が回る。「トラヤヌス」でアクションの迷路を最適解で縫え【レビュー】

  • 執筆者の写真: 下村ケイ
    下村ケイ
  • 7月10日
  • 読了時間: 15分

更新日:7月11日


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●マンカラについて


本作の中心的なメカニズムであり最大の特徴でもあるマンカラですが、

そのルーツは紀元前4000年に遡ると言われ、世界最古のボードゲームのひとつでもあるそうです。


では本作はそのマンカラをどのように取り扱うかと言うと、


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まず、6つ並んだ皿の内のひとつを選びます。

その皿には小さな木ゴマがいくつか配置されている訳ですが、

それを手に取り、選んだ皿から種まきのように時計回りで1個ずつ分配していきます。


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例えば、この皿の木ゴマをピックするとすると、、


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こうなる訳です。

ちなみに6つの皿はメインボード上に存在する6つのアクション分野と対応しており、

種まきを終えた皿(最後に木ゴマを配置した皿)に対応するアクションを行えると言う仕組みです。


上の写真の例で言えば、卒業証書を入れる筒みたいなアイコンが描かれた皿で種まきを終えたため、それに対応する「元老院アクション」が実行できる。


というルールでございます。


さて、それでは本作の魅力を語っていこうと思います。



●何が本作を特別なものにしているか。その魅力。


本作を構成する諸要素それ自体は、さほど複雑ではありません。ルールの単純な分量で言えば初回のインストはそこそこ骨が折れるかもしれませんが、昨今の重量級ボードゲームに慣れ親しんでいる方からすると、むしろ複雑に入り組んでいない分、理解のハードルは低いとさえ言えるかもしれません。


しかし、適切な比率で調合された調味料がえも言われぬ風味を形作るように、それぞれの要素が過不足なく絶妙に噛み合い、折り重なることで非常に悩ましく、そして考えごたえのあるパズルのようなゲーム体験を生み出しています。


例えば、手番ですることと言えば「マンカラの分配」と「それに対応するアクション」だけなのですが、そこへ至る意思決定にはいくつものレイヤーがパイ生地のように折り重なっています。


○意思決定の一層目——効率化と言う名の取捨選択を延々。我々はもはや不器用ではいられない。


デザイナーであるフェルトと関連づけて語られることの多い「ポイントサラダ」なる言葉ですが、本作もその例に漏れず実に多様な得点源が存在し、何をやってもある程度の得点は稼げるようになっています。


裏を返せば、よほど器用に立ち回ることができないと点数の相対差が生まれにくいと言うことです。


また、これまたフェルト作品の特徴として語られることの多い「ノルマを達成できなかったらそこそこ痛い失点を喰らう」というペナルティ要素もちゃんと入っています。


つまり、本作の本質的な目的は、多岐にわたる分野を縦横無尽に横断しながら

「いかに効率よく点数を集められるか」

そして

「いかに効率よく失点を避けるか」

を求められる、言うなれば「どれくらい器用に立ち回れるか」の競争だとも言えます。


例えばフォーラムアクションに注目してみましょう。


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フォーラムアクションの中身はこの上なくシンプルで、ボードに並んだタイルを1枚だけ獲得することができます。


例えば左側に並んでいるオレンジ色の「エクストラアクション」タイルは、あるアクションを実行するときに所有している該当タイルを破棄することでそのアクションを二回連続で行うことができるというものです。強力なのは言うまでもありません。


しかし、各ラウンドごとに公開される「需要タイル」に対応するタイルをラウンド終了時に支払わないと、そこそこ痛い失点を食らいます。3枚すべてを無視すると、実に-15点。なんとしても避けねばなりません。


丸いタイルが市民の需要を表わしており、ラウンドごとに1枚ずつ公開されていきます。
丸いタイルが市民の需要を表わしており、ラウンドごとに1枚ずつ公開されていきます。

ここで相手の動きを見てみましょう。例えば、相手の軍師コマが既に10点の領土に到達していたとします。


赤い軍師コマが10点の領土に到着していますね。
赤い軍師コマが10点の領土に到着していますね。

この状態ではまだ得点は発生しません。まずは個人ボードにならぶワーカーを軍事キャンプに移し(1アクション目)、更に軍事キャンプから軍師のいるエリアにワープさせることで(2アクション目)、はじめて10点がもらえるようになっています。


つまり、もしも相手が「軍事」のエクストラアクションタイルを獲得した上で、マンカラくるくるにより軍事アクションを行う=2アクション分の動きを許してしまうと、一手番で10点もの勝利点を発生させてしまうのです。


ちなみに、領土に他のプレイヤーの駒が既に置かれているともらえる勝利点が目減りする、というルールがありますので、うまく立ち回れば相手の10点機会を少しだけ弱体化させることも可能です。悩ましく、且つ力的なインタラクションですね。


自分の計画に対応するエクストラアクションタイルを優先させるのか。失点を回避するためにフォーラムタイルを集めておくのか。相手にとっておいしいアクションの芽を摘んでおくのか。盤面の状況や相手の動きと照らし合わせながら「効率化」と言う名の「取捨選択」を繰り返し続ける。ちょっとした変数一つで何が正解かなんて簡単に変わってしまい、そもそも一つに定まる正解すらあやふやな状況を延々と悩み続ける。とても難しく、そして楽しい時間です。


〇意思決定の二層目——回るマンカラ。変わる思惑。ずれる計画。


さて、冒頭にも述べた通り望むアクションを実行するためには望む皿で種まきを終えねばなりません。


何が言いたいかというと、個人ボード上の木コマの配置次第では、どう足掻いても望むアクションを選べない瞬間というのがあります。


つまり、手番ごとに求められる最適解と思しき行動すらマンカラがひとつ食い違うと満足に望むアクションすら打てない難しさがあるのです。


時には誰もが認める美味しいオブジェクトがあるでしょう。時には絶対にカットせねばならないアクションがあるでしょう。時には破滅的な失点を紙一重でかわせる起死回生のタイルがあるでしょう。それすらも、叶うかどうかはマンカラ次第なのです。


と言うわけで、直近で打ちたいアクションのためにどの皿から種まきを始めるのか――は言わずもがな。効率よく、且つ効果的に勝利点を集めるには常に「今の種まきによって、次の種まきにどう影響を及ぼすか」を考えながらマンカラをくるくるする必要があり、常に二手三手先を見越した計算と計画性が求められるのです。


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例えば。こちらでは「柱二本アクション」はどう足掻いても打つことができません。ただ、今回の手番で「軍事(兜)」のお皿から種まきを始めると、「門アクション」の皿に3個の木ごまが溜まり、次の手番で「柱二本」のお皿まで到達することができます。


ただ、この選択肢にはひとつ問題があります。

それは「柱二本」のお皿に木ごまが二つ並んでしまうこと。

そうすると「柱二本」の皿から種まきを始めると「軍事(兜)」を通り越して「卒業証書筒」まで到達してしまうのです。先程のように「このまま相手を放っておくと10点になってしまう」と言う局面では、考え物な展開ですね。


(本当は個別にマークアップした写真を使って解説したかったのですが、

サイトの容量の問題で同じ写真を貼らせていただきました。申し訳ありません)



そして、自分のマンカラを回せるのは自分だけ。運に見放された、なんて逃げ道をこしらえる隙間すらなく、ただただ数手番前の迂闊さを呪いながら——或いは数手版前の偶然が引き寄せた僥倖を感謝しながら、ゲームが終わるまでマンカラを回し続けるのです。


さて、フェルトのデザインはここで終わりません。


〇意思決定の三層目——トラヤヌスタイルによる悩ましさの第三種接近遭遇


ゲーム中、トラヤヌスアクションを実行することで得られる「トラヤヌスタイル」ですが、


左側で見切れている正方形のタイルです。
左側で見切れている正方形のタイルです。

このように、


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6枚のお皿にくっつける形で個人ボードに配置されます。

これは条件を満たすともらえるボーナスみたいなものでして、

その条件というのがズバリ、

「マンカラの種まきを終えた皿に、タイルに記載された色の木ゴマがあるかどうか」

というものです。


トラヤヌスタイルによって得られる効果はどれも強力且つ実用的なものばかりであり、先に述べたようなアクションと並行していかに色を揃えていくかにも苦心することになります。


ただでさえ二手三手先を見越しながら現今の最善を尽くそうと思案を重ねねばならないのに、さらにそこに「色を揃える」という別軸の課題が言葉通りの意味で「二重苦」「三重苦」としてプレイヤーに立ちはだかります。


無論、その苦がことボードゲームにおいては魅力になることは、敢えて言うまでもありません。


意思決定におけるこの3つのレイヤーが重なりながらそれぞれで違った側面を見せるので、各要素はシンプルながらも絶妙に難しく悩ましいパズルの様相を帯びているのです。



●思考の泥濘、ままならない袋小路。それでも感じる切れ味。


と、効率的であることを追及しようとすれば底なしの思考が待っている本作ですが、その手のボドゲと比較するとプレイ感自体はそこまで重すぎない感じがします。


思い当たる理由は主にふたつ。


まずひとつめですが、それはインタラクションの性質にあるように思います。本作が持つインタラクションは基本的に「早い者勝ち」に集約されます。ゆるい陣取りを形成している建築アクションとて、詰まるところいかに相手より早く、そして効率的に労働者を配置していくかの競争であります。つまり、自分の計画をひっくり返せるのは自分だけであり、せっかく苦労して積み上げた計画が相手の一手によってご破算になるようなことがあまりないと言えるのです。それ故に好きなだけ自分の内側でマンカラを介した思考に没頭することができる。マンカラを介した思考は先述のレイヤー群によって非常に悩ましく考えごたえのあるパズルを形作っているが、それがうまくいくもいかぬも結局は自分次第。息苦しさを覚えるほど濃密なインタラクションを「じとっとした湿度」に例えるなら、本作はまるで「空調された図書館の室温」とでも言いましょうか。何を言っているんですかね。


黙々と計画に没頭できる時間は、得も言われぬ至福です。


無論、インタラクションが希薄である訳ではありません。早い者勝ちであるとはすなわち、遅れた者が一方的に損をこうむることだという事実は、ワカプレの例を出すまでもないと思われます。本作のインタラクションはその質量ではなく質感を味わうものであり、詰まるところ「いかに相手より早く動くか」「その結果として後ろ倒しになる物事の優先順位を見誤らないか」なのです。


そしてふたつめは、本作におけるあらゆる思考は「整数の暗算」に帰結するという事実です。目の前で択一すべき行動の有用性について正確に評価しようとすると、他の優れた重量級ボードゲームの例に漏れず極めて微妙な――それこそ小数的な価値の計算が始まりますが、それをうまく実現させられるかどうかは結局マンカラ次第。つまり、いくつの木駒をどこでピックするか。これは整数の計算なんですよね。仮にどれだけ巧妙な妙手があったとしてもマンカラをしくじればそもそも実現不可能になるし、裏を返せばマンカラさえうまく乗りこなせればいくらでも挽回は可能。なのでイメージとしてはゲームを通じてひたすら頭の中で整数の暗算を続けているような感じでしょうか。


それが、深みと粘度のあるトラヤヌスというゲーム体験にどこか すっきりとしたタッチをもたらしているように思えます。


なんだか泥濘に思考の足をすくわれそうになるのに、カウントさえ間違えなければそうトンチンカンなことにはなりにくい。とても難しいにせよ、何が分からないのか分からない、なんてことにもなりにくい。


言い換えるなら、


きちんと悩ましく、そしてきちんと楽しい。


そんなボードゲームなのです。



●レビューチェックリスト

1:深さ/複雑さ

「意思決定において、どれほどの困難≒楽しさが伴うか」

4.0点。6つの全く異なるアクション分野と、それを実行するために解かなければマンカラというパズル、そして皿の中の色を参照するトラヤヌスタイル。意思決定へと至る思考のレイヤーが3つ緊密に折り重なることで、効率を求めるならどこまでもこちらを飲み込むかのような難しさと悩ましさがある。されど、ゲームに慣れてくると詰まるところマンカラをいかに上手に運用するか、という問題に帰結するため何も分からないまま時間が過ぎていく、というような不透明な難しさではない。安心してどっぷりと思考&計算の沼に沈むことができる。


2:メカニズム

「ゲームの設計はどれほど美しいか」

3.5点。無数のルールが過不足なく組みあがっており、それらが美学にも似たバランス感覚で縒り合されている。昨今の複雑化した重量級ボードゲームに慣れ親しんでいるプレイヤーからすると、ともするとそれぞれのアクション分野それ自体はやや簡素に思えるかもしれない。だが、本作の未了はそれらの組み合わせ×マンカラの掛け算にあるため、闇雲に物量を積み重ねたようなゲームでは得難い切れ味めいたものは確かにある。

また、一見すると強烈に強力な「+2」タイルやエクストラアクションタイルも、そればかりに気を取られていると却って効率曲線が鈍化するあたりも、容易に懐いてくれない感じがして良きである。


3:相互作用

「他プレイヤーとの絡みの量、質」

3.5点。ともすると個人ボード上のマンカラという閉じた世界に没頭してしまいそうだが、マンカラは目的でありながら同時に手段でもある。マンカラの向こうに広がるメインボード上の世界で、静かな上にともすると地味にも思える「競り合い」の瞬間がある。だが、タッチの差で損得が分岐する瞬間をぎりぎりのところで制したときなんかはインタラクションの滋味を堪能できるし、ただでさえ脳を焼くようなパズルの思考を乗りこなしながら相手と競り合う時間は白熱と言っても差し支えないだろう。


4:リプレイ性

「プレイ回数を重ねたくなる度合い」

3.5点。ラウンド毎に配置されるフォーラムタイルはランダムなため、時折びっくりするほど美味しい分野ができあがったり、反対に旨味の乏しい分野ができあがったり。そういう種類の変動性は存在し、それ故にリプレイ性もそう低くはない。ただ、このゲームにおける「リプレイ性」の本質とは「マンカラ」という作業それ自体にあるとおもう。故に、マンカラを介した知的なパズルにどれだけ本能的な魅力を感じれるかで、リプレイ性の評価は割れるところだろう。


5:ムード

「テーマやアートワークはボドゲ体験をどれほど彩るか」

3.0点。他のフェルト作品同様、全体的にやや抽象的である。なぜ建築が陣取りの様相を帯びているのか。なぜ一枚目の建築タイルによって追加のアクションができるのか。軍事アクションとて、早い者勝ちというインタラクション以外におよそ軍事的なにおいは希薄だ。ただ、フェルトのボードゲームが好きな人には無粋な指摘だろう。むしろ賢帝と謳われたトラヤヌスの頭の中を追体験し、あれもこれもに手を回さねばならない忙しなさを通して知恵と器用さを求めるテーマ、と解釈すれば、少なくとも「乾燥した無味無臭」という訳ではない。


●主観的点数:4.0点(5点満点)

〇その理由:

重量級ボドゲと言えばまだアグリコラくらいしか知らなかった頃に出会い、そして「こんな悍ましい(誉め言葉)ゲームが世の中には存在するのか」と衝撃を受けた一作。そのため個人的に思い入れが深いし、その時の印象がいまだに尾を引いてフェルト作品には無条件で惹かれてしまうようになった。


それから月日が経過して、そこそこ重たいボードゲームも遊ぶようになった今、改めてトラヤヌスというボードゲームを見詰めなおしてみると、当時はただただその思考の総量に圧倒されて見えなかったディティールや、それらをメインボードという鍋にぶち込んでなお破綻しないバランス感覚を少しだけ感じられるようになってきた。


ボード上に毛色の異なる複数の分野が並列に配置された「幕ノ内弁当」的な構造のボードゲームは最近の
(なんて言えるほどボドゲ歴は長くないのだが)重量級にはちょくちょくみられるが、トラヤヌスにおける「オカズ」はそれぞれが絶妙に違う味付けがされているためプレイによってどこに重きを置くかの調整が存分に楽しめつつ、全ての受け皿である「米」として機能する「マンカラ」が弁当全体を機能的に束ねている。そのため並列されたオカズの多彩さに反してまるでとっ散らかったような印象がない。


また+2タイルは一見すると必須レベルで強力なように思えるが、他プレイヤーが一切+2タイルをとらない状態で終えたゲームが思いのほか僅差だったことからも、バランスは極めて優秀かと思われる。バランスが良いと何が良いかと言うと、ボード上に散りばめられた無数のオカズを好きなように組み合わせても、効率さえ気を付ければちゃんと勝負になると言う点だ。「このアクションは必須だから、実質このアクションをいかに組み合わせるか」というような窮屈さをプレイヤーに強いない。想像力がそのまま戦略になり得るゲーム強度は、好きなように試行錯誤できる安心感がある。深みをシンプルさの中に隠し持つ本作のパズル的な脳の負荷は夢中になるには十分なほど個性があり、そしてそれらを、2時間超の重々級(安定して2時間を超えるゲームをそう呼んでいる)というスケールではなく、場合によっては90分を切るちょうどよいサイズ感で実現している点も、地味ながら嬉しいポイントである。


比較的お手頃な価格で手に入れやすいので、ぜひ遊んでほしい一作。

という訳で、レッツマンカラなのです。


●評価点の算出方法


チェックリストの平均点+主観的点数


3.5+4.0点=7.5点



●テーブル幅

※後日、貼ります。


●宣伝


・短編小説「常世の暁」

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24時間夕焼けを見詰め続けていると、時に人は狂ってしまうらしい。

人々はビルの屋上から身投げをし、残された人間によってたくさんの詩が作られた。


昆虫学者として夕焼けの街に暮らす私は、

ある日、幻と呼ばれる蝶の話を耳にする。


(6000字程度。カクヨムにて公開中。画像をクリックすると該当ページに遷移します)



・生き抜け、専ら2人で。

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——死ねば全ロスト

それでも僕らは闘う


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